ナショナル BX−210の修理(ラジオ工房)

ST菅5球スーパーの調整に関してお願いできるでしょうか。
先日別のところで5球スーパーの整備(抵抗、コンデンサーなどの取り換え)をして頂いたのですが、
どうも受信感度が悪いようです。また雑音が多い気もします。
ラジオを90度近く右に傾けると少し受信感度がよくなります。
元々オークションで落札したラジオで受診状態はよくありませんでした。
ラジオの調整、整備が必要かどうか、一度見ていただけないでしょうか。 

通電してみると確かに感度が少し悪いです、それに雑音も気のせいか多い感じです。
この機種は当時の最高級機種で感度も当然高くなくてはいけません。
ただ高周波増幅付なので 調整を真面目にやらないと 感度が思うほど良くなりません。



シャーシ内部の様子です。
見事な整備状況です、正直 最初自分で引き受けてもここまではできません。

回路的に変なところは無さそうですが、42のプレート回路のコンデンサーの容量が0.0022に変更されています。
本来は0.005が組み込まれているはずです、大勢に影響は無いとは思いましたが、ここは原回路にもどしました。
この部分は高音カットの働きもしますので、微妙に効いてくるでしょう。

整備は綺麗にされているので、間違いは無いと思ったのですが、全体的に動作がおかしいので あちこち確認 やっと間違いを見つけました。
スピーカーの出力トランスから6Z−DH3Aにフィードバック(負帰還)がかけられていますが、この配線が逆に接続されていたのです。
出力トランスを交換した時 間違えたのでしょう。
この部分は非常に間違いやすいのです。
トランスの巻き方で 同じように接続しても逆相になることがあり、このようなトランスを交換する場合は注意が必要です。
負帰還で音質改善のはずが正帰還になっていました、これで雑音が強調されていたのです、当然音質も悪くなります。
これで雑音が目立つ件は ほぼ解決。

もう一つは ヒューズの位置が110Vのところに組み込まれていて、全体が90%の電圧で働いていました。
これも正常な位置に組み込みました。




ヒューズは800mAのものが使われています。
普通は1Aのものが使われるのですが、安全側(切れやすい)なので良しとしました。


中央の正規の位置は使われていない。




100Vの位置にヒューズは入れてください。

雑音の件はほぼ退治したので あとは調整です。
IFTは残念ながら未調整のようでした。
IFTの軸が全く動かないのです、これで未調整だと判りました。
ナショナルのラジオはIFTの調整が非常にいやらしいのです。
調整ネジの固定側軸が ネジと固着していて 一緒に廻るのです。
固定側の軸にはコイルが巻かれているので、調整しようとして、同時に軸が廻り 結果的にコイルを断線させて困ったことが何度も有ります。
できればやりたくない部分です。

しかし感度を上げるためにはやらざるを得ません。
なんとか 軸を固定して ネジを動くようにし 455KHzに調整しました。
次は目盛合わせとトラッキング調整をして終了です。
これで感度も向上しました。
またIFTが完全に調整されていないと雑音が目立つことがあります、雑音退治にも多少貢献したでしょう。

RF増幅付のスーパーは丁寧に調整しないと 思ったほどの感度にはなりません。
各段の調整が狂っていると、総合的に感度は良くならないのです。



調整後は ペンキを塗って軸を固定します。
なおペンキはすぐ取れる程度の固着力が望ましいのです。
振動で揺れた時に動くのを防止するためで、接着力の強いものを使用してはいけません。

このタイプのナショナルのIFTは本当に嫌らしいです、調整しない気持ちよく理解できます。
(他社のものでこんな酷い作りのものは有りません。)



修理後のシャーシ内部。

なお傾けると感度が良くなる云々と依頼主の話ですが、この現象は最終的には確認できませんでした。
ただ 修理途中で6D6のグリッドキャップが緩いことに気づき 少し硬くしたので 感度の良くなる(悪くなる)現象が消えたのかもしれない。
(グリッドキャップが緩いと接触不良で感度が低下する)
製造後60年くらい経過していますので 思わぬところに落とし穴があります。

当初に比べ 感度も良くなったし、雑音も減少したと思います、ただ現在は住宅の環境が雑音まみれなので、使い方に工夫が必要でしょう。
雑音の出にくい場所を探して 動作させる必要があります。
当然アンテナも工夫が必要です。
トランジスターラジオのようにラジオ内部にアンテナが組み込まれていませんので、ビニール線でアンテナをはってください。



スピーカーからの配線(白と緑)を逆にした。
これで正帰還から負帰還に変更できる。





なお DX LOCALの切替が有りますが、LOCALにした場合IFの6D6のカソードバイアスに5KΩが追加されるだけの回路です。
このラジオは高感度なので 昔 放送局に近いところで使う場合の対策なのでしょう。
現在では 不要な機能かも。

ナショナル BX−210 標準回路図 (無線と実験昭和28年7月号より)


 まとめ
このラジオの修理を終えて 感じたこと。
感心するほど丁寧に修理してありますが、欲を言うと。
@RF付スーパーを無調整で終わらせるのは感心しません。
さらに修理完了後 RF付スーパーの場合 感度試験をすべきでしょう。
BCLラジオと異なり、アンテナ端子からの試験でおおよその感度は判明します。
Aヒューズの位置は正しく入れましょう。間違うと危険です。
B負帰還など原理を理解しないと配線間違いを起こします。間違うとこのような悲劇になります。
Cグリッドキャップの緩みは確認すべきです。単純ですが致命的です。

なおこのラジオは数百台以上の修理経験のある有名な方の修理品です。
それだけの経験があっても間違いやすい現象です。
負帰還の付いたラジオでトランスを交換したときは充分ご注意ください。

2013年3月20日
2018年8月10日

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2013年3月9日
2013年3月15日:406 依頼人の希望により 裏蓋の画像を削除。
2013年3月20日:541
2018年8月6日:5,666









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